2013/02/24

「筬 おさ」

 「筬 おさ」 は、経糸の幅を維持し、本数の多い経糸の配置を正確に維持するものである。そして筬柄にセットされ、緯糸を打ち込む時の最前線である。単純でありながら、精密でしっかりした仕掛けが必要な道具だ。下の写真は北岡さんのところの筬である。
 北岡絹筬店当主は16代目北岡高一氏であったが亡くなられて久しい。北岡絹筬店はなくなってしまった。北岡さんの筬もなくなった。北岡さんの筬も美しかった。そして、どこのものよりも丈夫な筬だった。
 

北岡さんの着尺用筬 幅は鯨尺で1尺5分~1尺1寸幅
 
これは昔の筬を直したもの 現役です
 
いろいろの筬の羽数の違い

巻き取りようの筬 (説明は省く)

筬の保管箪笥
 
一番手前の筬は帯ようの幅、その次が1尺5寸幅(鯨)の中幅筬、真ん中が着尺幅
筬(1尺1寸)、奥が大幅2尺2寸幅の筬 ・・・というふうに使い道によっていろいろな幅がある。
作者はなくなられても筬は残る。

時期はわからないが、いまだ新しい北岡さんの筬


 

 





2013/02/20

「杼」

 
 「杼」とは、張られた経糸に緯糸を通す仕掛けが杼なのである。私の仕事場は、小幅ものが主な仕事だから、杼もそういろいろな種類があるわけではないのだが、下の写真のような杼がある。「杼」といえば、「材と技」の京都の長谷川杼製作所をおいてないだろう。3代目当主の長谷川淳一 氏は1933年のお生まれ、奥様とお二人で杼を製作している。沢山の種類の杼、その一つ一つのすべてが姿が美しい、美しさは使い勝手の良さに通じる。そして美しさばかりでなく、そこには裏づけされた製作理論もあるのだろう。お元気でお仕事を続けてほしい。
 
私の仕事場のいろいろな杼、二三を除いて、あとは長谷川さんの杼
 
これはバッタン織用の飛び杼

すくい織り用の杼、全般的にうすく・小さく・細く・長くと多種類

上2点は昔の木綿糸用杼

手投げ杼、おもに紬糸用の手越しの杼
 
 以上が、長谷川さんの杼だ。
次は、・・・・板杼、太い糸や外皮など管(ボビン)に巻けないようなものを織るのに使用する。

奥の2つは、裂織やウール太糸用の板杼
 
  一つの木魂から、削り刳られ、作り出す杼だが、国や地域、そして使い道によっても形が違うのがおもしろい。しかし基本的には同じものだ。単純だからこそ織る人に扱いの技術が求められる。今も世界各地で刀杼によって、おおらかで魅力のある布が織られている。
 
地機用刀杼
 
穴に緯糸を巻いた管を入れ、緯糸を通すだけでなく、
筬代わりに打ち込む役目もある

  まだまだ、いろいろな杼はあるだろう。織物の先端では織機には杼のない織機が出てから久しいのではないのか。シャトルレスの織機だ。杼のかわりに水や空気を使い緯糸を飛ばす。ヲータージェット、エアージェットとよばれ、音も静かなうえ織るスピードも素晴らしい。そのような科学技術の粋をあつめた道具もあれば、人手によって静かに作り出される道具もある。
 
 
 




長谷川杼製作所 602-8313 京都市上京区五辻通千本西入風呂屋町55
電話075-461-4747  長谷川淳一
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  


2013/02/11

「 しずわ(静輪)」

今回は仕事場の道具に入る前に、ちょっと楽しい文章に出会ったので、それを引用してみたい。この記事は山岳雑誌「岳人」に掲載(1971年12月号最後のページ「表紙の言葉」)されていた、辻まことの言である。
 
 「登山用具は昔からくらべると、驚異的に進歩したとおもう。冬の場合は、ことに使ってみるとありがたくなる場合が多い。
 アイゼン、ザイル、天幕、ストーブ、衣類など、どれをとってみても性能がよくて、明るくなってきた。そして毎年毎年新しい発明が少なからず顔を出す。
 ところでこの道具というやつは、やっぱり使いこなすまでには技術がいる。技術の習得には時間がいる。こんなことをいうと、道具やの方じゃ、いや技術の習得なんぞいらないように改良されているんだ・・・・といいそうだが、そうはいかない不安を登山者なら必ず持つものだ。新しい道具は人間と同じで、みかけただけではわからない。艱難辛苦をともにしてみて、つき合えるかつき合えないかわかってくるものだ。
 新しい道具に頼ってみて、いろいろうまくいったとする。なんだか金を払ったガイドのおかげで、山へのぼれたような気持ちになり、少しばかり自尊心が傷つけられた気分になることだってなきにしもあらずである。
 一体どこまで道具とつき合うべきか、これは人々の能力いかんで、千差万別にちがいないが、私なんぞはいつもこの点で迷ってきめかねることが多い。そして能力ぎりぎりのような山へ行くときにかぎって、本当は役に立ちそうな新しい道具を持っていかなかったりするのである。」
 (この「岳人」の連載はのちに『山の画文』白日社から出版された。そののち『山からの言葉』として平凡社からも出版された。)
 
 これはなにも登山用具に限ったことではあるまい。人間と道具との係わり合いかたである。まさにいい得て妙である。辻まことのいい回しは穏やかだけれど、言は鋭利な厚手の刃物のようだ。
 
 
さて、今回は「しずわ」これもどうして静輪という名前がついたのか・・・。昔、ここの仕事場にも八丁撚糸機があったときに、撚り糸のテンションを調整するのに使われたものだ。焼き物でできていて、脇に輪の重さの数字が書き付けてある。尺貫法で匁の単位である。
 
 
他の都合の良いものがないとはいえ、かつての職人はいろいろな物を作った。
 
いろいろな大きさのしずわ
 
 

いまは出番がないので、このような使われ方がされている。

糸道の案内
 
羽のおもしの役目

 
 
 
 
 
  





2013/02/08

「たたり」

「たたり」とは面白い名称だ。「祟り」とは関係はないだろうが・・・まあ、民俗学的なことはさておいて。棒が立っているので「たたり」、簡単明瞭でよろしい。いたって単純なもの、古い時代からあったのだろう。このいたって単純明快な道具が、案外に賢いのである。材は土台、たち棒とも松材で作られている。画像のように1本と2本の二つの組み合わせである。たち棒は上部がややしぼられている。これが使い勝手を良くしているコツなのである。
 
 
この使い道の一つは、経糸の縞割りのときに使われる。
 
縞割りまえ


 縞割り完成
  
そして次の使い方、少し説明が要るが、この画像は仕事を一つ省略してある。いま羽にかかっている糸は緯絣のまだ絣部分の縛りが解いてないのであるが、ほどくと6本組の糸が何十回とある。それを捩れないようにほどくのに・・・・、面倒な説明はどうでもよくて、ようは大きな輪になっているかせを二つの羽を使って糸をとくときに、このたたりは糸道が左右に振れないように支えていてくれる。人一人分の仕事をしてくれる。 
 
 
 
次は大きくても小さくても、とけにくい糸をとくのに使うのである。かせ(輪になった)糸が回ってとけるのではなく、糸道が移動してとける。羽にかけてとけにくくなってしまった糸や大がなの糸や、ぼろ糸といわれているものも、最後にはこれを使うととけるのである。

 
たたりの上部には糸道がある
  
こんなところが、今日の「たたり」の使いみちかな。「たたり」は、まだまだ使い勝手でどうにでもなる優れものだ。