2013/05/22

「天蚕の製糸とは」


……有明地方に於いて始めて天蚕製糸の方法を知りえたのは嘉永元年(1848年)のことであって、当時遼七なる仏具商人に依頼して、同人の紹介で尾州犬山の西在、山那より工女四人を雇入れ、前後4年間に亘つて天蚕の製糸をなさしむると共に其の技を有明地方の婦女子に伝授せしめたのにはじまる。
 当時に於ける製糸の方法は所謂手繰(てびき)法と称せられるゝもので何等の機械的装置を用ひず、唯単に二三本指にて巧みに繰出し小枠に巻き取るに過ぎない方法である。従って繰糸の量も少なく、糸の品質も甚だ劣等であったのである。
 然るに其の後家繭製糸の方法に倣って或いは座繰方を採用し或いは足踏法によるの時代を経て漸く今日の如きケンネル式再繰法によるに至ったのである。……
               と昭和9年発行の「最新天蚕及柞蚕論」にはある。
 
 天蚕の繭から糸を繰るところを、写真を見ながら進んでみよう。
  


これが糸を繰る座繰り方式の道具で、現在は小型モーター
が動力だ。正面で繭を繰り背面で糸が枠に巻かれてゆく。


 
 
繭を煮る火力は昔ながらの炭である。

台の中央部に火床がある。

これは糸を繰るまえに、前処理として繭を煮ているところである。この作業にも煮
沸温度と時間の設定がある。天蚕の家(繭)は堅牢だ。野外が棲家なので造りが
頑丈。天蚕の繭は解除が容易でないので、1回に糸を繰る繭を前もって煮る。
そして、これは上の写真で繭を煮たものを座繰り台に移して、熱を加え温度が落ち
ないように保ちながら繭の外皮を剥いで、繭の糸口を出しておくための作業になる。
外皮を剥ぐ作業、これは大事な作業なのだ。

左側が外皮を剥がし一個ずつ糸口を出した繭、右側が繭の外皮部分。

こうして下仕事を済ませてから糸を繰る。糸の使い勝手で繭8粒か
ら13粒ほどで一本の糸にしてゆく。ケンネル撚りがかかっている。



「ふしこき」というものに通して糸の節が引っかかると糸が止まる。その節をとってやりな
がら繰る。ふしこきは糸の太さによって穴の大きさが違う。綺麗な糸をとるための道具。
鍋の上の、白く丸いものが「ふしこき」。きまった本数
を維持するため、鍋の中の糸口を常に補充してゆく。
 
作業場が人に暑くても、糸は風が当たると乾燥て切れやすくなる。
 
繭から出た糸を背中の側で枠に巻いてゆく。

 見てきたように、糸を繰ってゆく。 繭一粒から約0.2グラムの糸がとれる。ここで
出来た糸を、また使い道により何本にも合わせて撚りをかけて 一本の糸に作って
ゆくのである。 家蚕は人 間が扱いやすいように品種改良を重ねに重ねて繭を作
り糸が取れやすいように改良されてきた。 しかし、天蚕のような野蚕種 は人手は
かけてはいるが、家繭のようなことはない。 天蚕の繭たちは糸を取られるために
繭になったのではないのだ。 家蚕の繭を糸にしたことのある人にはの天蚕の糸引
きは好まれない。 なぜかといえば家蚕と比べると大変手がかかるからなのだろう。 
この仕事も道具に支えられている。 天蚕が自然界で大発生した時からは、既に
半世紀以上はすぎているのだろうか。




〔おりもの修行中/ランラン日記〕
のぞいた虫めがねのうちにひろがる織られた布、手間のかけられた奥深さにび
っくりした。 それが、今まで見えていなかったことにも驚いた。 織物という経糸
と緯糸の交差のなかに繊細な工夫をこらせるようになりたい。 繊細さを感じとれ
るようになりたいな。







 

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